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Vol.5 日本再興へのメカニズム ~IRの充実で企業の競争力は損なわれるのか~

スパークス・アセット・マネジメントの川部でございます。

前回、株主の権利としての株主総会への出席についてお伝えしました。株主の権利を適正に行使するためには、まずその企業を正しく理解する必要があります。今回は、企業の情報開示であるIR(Investor Relations:インベスター・リレーションズ)について考えたいと思います。

IRとは、企業が投資家に対して、財務状況や業績、今後の見通しなどの投資判断に必要な情報を提供する活動全般を指します。具体的には、決算短信や有価証券報告書、決算説明会資料などのドキュメントによる情報開示に加えて、企業との個別面談や各種説明会、工場・施設見学など更なる深い理解を促す取り組みが含まれます。企業の本源的価値を正確に投資家に伝えようとする活動すべてがIRにつながります。バリュー投資の父と呼ばれるベンジャミン・グレアム氏は「投資とは、詳細な分析に基づいたものであり、元本の安全性を守りつつ、かつ適正な収益を得るような行動を指す。そしてこの条件を満たさない売買を、投機的行動であるという」※1 と述べています。この詳細な分析の裏付けとなる情報源がIR活動によるものだとすると、十分なIRなき企業への投資は投機とも言えると思います。

「競合企業への情報流出を避けるため、IR活動・情報開示は最低限にとどめたい」

半導体関連事業を展開し、高いマーケットシェアにより、30%を超える営業利益率(売上高に対する営業利益の比率)を誇る企業のIR担当者の言葉です。同社のような企業にとって、高度な製造ノウハウは重要な知的財産であり、競合企業への情報流出は企業価値の棄損につながるとの懸念はよく理解できます。一方で一般的な長期投資家は、機密情報の開示を求めているのではなく、より一般的な情報開示を求めている場合が多いと思います。しかしIRに消極的な企業の多くは、過度に保守的な開示姿勢になっていることから、企業の価値が株式市場から適切に評価されにくいという状況に陥っている場合があります。例えば先ほどの企業は、高い収益性を誇る一方で配当性向(当期純利益に占める年間の配当金の割合)が一ケタ台と、株主還元には消極的です。この株主還元方針の背景を聞くと、「中長期的な市場の拡大が期待できるので、株主還元ではなく設備投資の積極化で業績を拡大させ、より投資家に報いたい」とのことでした。一見、合理的で納得できる回答にも聞こえます。しかしこれだけだと、「いつか投資に使うので、(規律なく)資金を貯め続けたい」と言っているに等しいとも感じます。その結果として、投資家の資金を有効活用しない企業として認識されてしまうという残念な状況が生じてしまっているようです。もちろん、設備投資計画が競合他社に知れることで、競争力に悪影響を及ぼす場合もあると思います。ただ、一様にIR活動を過度に制限するのではなく、投資家が企業の状況を正しく理解できる情報を適切に発信していくことは、上場企業として重要なことだと思いますし、企業価値が適切に株価に反映されるためにも必要だと考えます。また、長期の成長戦略が適切に開示されることで、長期投資家の資金が集まるきっかけになります。一方で、長期成長戦略が示されないと、株式市場もその企業に対して近視眼的になりかねません。ぜひ、企業と投資家とが長期的な企業価値向上について建設的に議論するためにも、IR活動の充実が図られることを期待しています。


スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆


※1:ベンジャミン・グレアム、ジェイソン・ツバイク著 『新賢明なる投資家 上』

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