
「企業の対話姿勢」が投資判断に与える影響とは?
みなさん、こんにちは。スパークスのサステナブル投資チームです。
われわれは日本株に投資をすることでリターンをあげることを目的に活動をしています。
そう聞くと、日々の業務は財務分析や株価チャート分析なのでは、と思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、われわれが最も注力している活動は企業との対話であり、その際に重要視しているのは「企業の対話姿勢」です。
何を話すかということの前に、どのような姿勢で対話にのぞんでいるかということが、投資判断に影響を及ぼすことがあります。
最近投資を開始したブリヂストンを例にとって、そのことをお伝えしたいと思います。
※こちらはサステナブル投資チームによる2020年12月末のマンスリーレポートをもとに再編集しております。内容はチームメンバーの見解を元に書いているため、スパークス全体の見解とは異なることがありますのでご了承ください。また、記事にある企業名等の内容は参考情報であり、特定の有価証券等の取引を勧誘してはいない点もご理解いただけますよう、お願いいたします。また、画像はイメージです。
背景
ブリヂストンは、故石橋正二郎氏によって1931年に設立されたタイヤメーカーです。足袋と靴の製造企業であった日本足袋の新規事業として始まったのがブリヂストン設立の経緯であり、実質な創業は足袋の製造を開始した1908年まで遡ります。
1908年当時の日本は近代化によって人の往来が活発になり、歩行距離が伸びたことで消耗される足袋の需要が大幅に伸びた時期でした。その成長産業に後発メーカーとして参入し、近代的な経営手法で全国トップクラスのメーカーへと駆け上がり、現在に続く経営の基礎が築かれました。
時代の変化とともに製品をゴム底足袋、ゴム靴へと進化させ、その過程で身につけたゴム加工技術を発展させる形で1930年にタイヤ製造を開始し、1931年にブリッヂストンタイヤ株式会社として独立した事業体となった後は1951年のグッドイヤー社(米国)との提携、1988年のファイヤストン社(米国)の買収などを通じてミシュラン社(フランス)と世界シェアのトップを争うポジションに成長しました。
しかし、ここ数年のブリヂストンは世界トップクラスを維持してはいるものの、新興国メーカーの成長によるシェア低下や、グローバル基盤整備のためのコスト増加などで利益成長に停滞感が出ていました。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかける形で、今期は大幅減益となることが見込まれています。
経営陣の交代と、事業モデルの変革
そのような状況下で、当戦略がブリヂストンに注目したのは、2020年3月にCEO(最高経営責任者)に就任した石橋秀一氏(創業家の石橋家とは無関係)のイニシアチブによる構造改革によって、同社が長年にかけて築いてきた強い事業基盤が、さらなる価値創造につながるシナリオが見え始めたからです。
石橋CEOは7月に発表した中長期事業戦略において、サステナビリティを経営の中核に据えた上で、「タイヤ・ゴム事業の強みを活かしたソリューション型事業へとビジネスモデルを転換する」という方針を掲げました。その後数ヶ月の間に、地球温暖化ガス排出削減への貢献を一段と推し進める方針や、顧客エンゲージメントを重視したビジネスモデルの詳細など、具体策が次々と発表されています。
例えば、低燃費タイヤの開発や、リトレッド(タイヤの表面のみを交換するサービス)の強化などがそれにあたります。ユーザーが新品タイヤを3本購入することに替えて、低燃費タイヤを購入して2回のリトレッドを行うと、製造時の原料使用と温暖化ガス排出はそれぞれ約50%削減されるとのことです。
ブリヂストンの企業価値という点から見ると、生活者の環境意識が高まる中で、環境によいソリューションを提供することはブランド価値の向上につながりますし、顧客との繋がりを強化することで安定的な収益モデルの構築が可能となります。このような事業展開は高性能なタイヤを製造する技術力と、幅広い販売ネットワークの両方を持ち合わせている同社だからこそ実現可能であり、独自のリソースを価値につなげる仕組みとして注目できます。
前向きな姿勢を取り始めるということが、すぐれた経営実績の前触れになることがある
当戦略が最終的にブリヂストンへの投資を開始した理由は、事業モデル変革への期待に加えて、同社が投資家との対話に非常に前向きな姿勢を示し始めたことも挙げられます。
石橋CEOは四半期ごとに中長期の経営戦略の説明を行っていますが、投資家が理解しやすいように細部にまでこだわりがみられる点は好感が持てます。また当戦略とのミーティングにおいてのIR担当者の対応も投資家への情報伝達にとどまらず、我々からの意見を収集して経営に伝える役割を果たそうという姿勢が強く感じられます。
我々は過去の調査活動の中で、投資家とのコミュニケーションに前向きな姿勢を取り始めるということが、優れた経営実績の前触れになることを幾度となく経験してまいりました。周囲への配慮を強く意識することが、より良い経営判断に繋がり、その結果多くのステークホルダーのサポートを得られることで、優れた実績が可能になると考えられます。
同社の経営改革は始まったばかりであり、順調に進むかわからない段階であります。そのような段階であるからこそ、我々は外部からの見方を積極的に伝えることで経営の参考となり得る情報を提供し、活動に推進力を与えたいと考えております。
同社が掲げているサステナビリティへの貢献と、それを通じた価値創造を目指すというビジョンに期待し、株主として変革を側面から支援してまいります。
スパークスのサステナブル投資戦略は日本版スチュワードシップ・コードや国連が支援するPRI(責任投資原則)の考え方に準拠し、良質なパフォーマンスを追求すると同時に、よりよい社会を構築する一助となるべく企業との対話を行い、優れた投資先企業を選別した上で株主として支えてまいります。