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Vol.6 日本再興へのメカニズム ~継続増配へのこだわりは手放しに歓迎すべきか~

スパークス・アセット・マネジメントの川部でございます。

前回、長期投資家の資金を集めるためには、企業の情報開示が大切であるとお伝えしました。情報開示に加えて、企業経営者の長期業績への自信を「配当政策」で表すという手段があります。有価証券報告書に記載される配当政策には、「安定的な配当の継続」や「継続的な増配」といった記述が散見されますが、今回は、この配当政策について考えたいと思います。

配当政策とは、企業が稼いだ利益をどの程度株主に還元するかについての方針です。当期純利益に占める配当額の割合を配当性向、配当額に自社株買い額を加えて当期純利益で除したものを総還元性向と呼びます。この配当政策にはシグナリング効果(豊富な情報を持つ方が情報を持たない者に対して、情報をわかりやすく明確な「シグナル」として発信することで得られる効果)があるといわれています。企業が増配を決定した場合、長期間にわたり業績を維持・向上させることができなければ、将来、減配をせざるを得ない。そのため、企業経営者が長期業績に対して自信がなければ、増配を決定することはできないと考えることができます。このように、株式市場は、増配を企業経営者の長期業績への自信=シグナルととらえることがあります。通常、企業の経営者と外部投資家との間には情報格差が存在し、企業の経営状況について、経営者の持つ情報の方が、外部投資家の持つ情報よりも、質・量ともに優れていることが一般的です。そのため、配当政策を長期的な企業業績へのシグナルと考えることができるとされてきました ※1 。

ここで、長期的な増配を継続しているものの、配当性向が低水準にとどまる上場企業経営者の言葉を紹介します。

「株主還元については、配当性向ではなく、継続的な増配を重要視している。また、当社は発展途上の企業のため、(株主還元拡充ではなく)成長による株主価値向上が大切だと思っている」

増配を期待した株主からの意見に対する会社からの回答です。シグナリング理論に従えば、継続的な増配は、長期業績への自信のサインかもしれません。筆者の私見となりますが、継続的な増配の呪縛から解放された方が良い場合もあるように感じます。成長による株主価値向上が大切であるのであれば、配当政策を減配ないしは無配とし、大きく投資に舵を切るという経営判断もあり得ると思うのです。その代わり、一定の投資が完了した暁には、その果実を十分に投資家に還元すれば良いのではないでしょうか。その際は、配当性向や、自社株買いとの組み合わせにより、総還元性向を100%以上に高めることも選択肢に入れるべきだと考えます。ここで重要になってくるのが、企業の情報開示であるIR(Investor Relations:インベスター・リレーションズ)です。なぜ減配・無配にしてまで投資が必要なのか、どのような果実を手に入れることができるのか。この点について投資家に十分に説明することができれば、もっと機動的な企業経営が可能となり、更なる企業価値向上につながると思うのです。株主との対話の推進が求められる中で、株主還元の考え方についても、画一的な方針にとどまるのではなく、株主との対話を通じて、機動的な還元方針を考える時期が来ていると感じます。


スパークス・アセット・マネジメント株式会社
チーフ・アナリスト 川部 正隆


※1:理論的には、完全資本市場において、企業の配当政策の変更は、企業価値・株価には影響しないといわれています(MM配当無関連命題)。しかし、あくまでも情報の非対称性などが存在しない完全資本市場において、であることが前提です。


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